デリケートな話題

3年前、某最高学府の学生さんが、
サークルの飲み会中に亡くなるという事故？があったそうで、
報道によると、ご両親がサークル仲間を提訴している様です。

という件そのものには、あまり触れたくは無いのですが、
実は、10年間医者をやってきて、
未だに急性アル中で亡くなった方を診たことがありません。

アル中で肝硬変になった方が、
肝不全で亡くなるのは沢山診てきましたが、
急性アル中を死因と確定した事がないんです。
どうやって確定しているのか気になって仕方ありません。

アルコール多飲後に意識レベルが低下して救急搬送。
懸命の治療にもかかわらず亡くなられた。

というケースなら分かるのですが、
そんなこと、あるんかしら？

自分自身、訳の分からない意識障害救急患者さんを相当数診てきましたが、
お薬で瀕死になる方はいても、酒で瀕死になった方は一人もいません。
某車の町の某お祭りの時なんて、
救急外来のベッドが全部埋まるくらい泥酔患者さんがやってきていましたが、
入院後に重症化した方の話なんて聞いたことがありませんでした。
皆、翌日には頭が痛いとぼやきながら帰っていきます。

ただ、泥酔だと思ったら別の重篤な疾患が意識障害の原因だった、
というケースは時々あったりします。
怖いですねぇ。



今回提訴されているケースは、どうやら死体現象もあった様で、
厳密には異状死体、不搬送とすべきケースだったと考えられます。

ということで、来院後に採血なんかしてもなーんにも分かりません。
くっちゃくちゃのデータでわけわかめです。

解剖、AIまでやると、
SAHをはじめとした脳出血
PE
MI
緊張性気胸
窒息
解離
心タンポ
大量出血(未診断のHCC ruptureとか)
あたりは除外できるのですが、
ど～～～やっても除外できない(故に乱用される傾向のある)
死因があるんです。

心室細動、赤い箱使わないといかんあれです。
亡くなった後じゃ分かんないんです。
アルコールで誘発される事もありますし、
元々Kが低めだったりすれば、
嘔吐のしすぎで低K→VFって事も起こり得ます。
こいつは、亡くなった後だと除外しようがないんだにゃあ。

(真夏のケースだと、熱中症からの多臓器不全で亡くなる事もあり得ます。
亡くなってからのデータだと、そう解釈できなくもないですから。)

そもそも、真夜中に本来運ばれるべきではない
異状死体が搬送されてきて、
前日に泥酔していたと聞いたら、
ろくに検査もせずに死因をアル中にしちゃう先生って、
結構沢山いると思うんですよね(想像ですが)。

異状死体ということで、
警察の方に来ていただいても、
何だか儀式的に心臓血と、
何故か髄液を取らされて、
心臓血でトロポニンでも出ようものなら、
『心筋梗塞ですね』
みたいな事になるのが大半。
話題のケースなんて即、
死因は『急性アルコール中毒』という事になってしまうでしょう。

成人が『お酒の飲み過ぎ』が原因で亡くなったと確定できた場合、
本人が望まないのに飲酒を一方的に強要された事が証明されれば、
強要した側は、その後の放置も含めて責任を問われるべきでしょうが、

飲酒と死亡の因果関係が明確にできない場合、
飲み会中に泥酔して横になっていた友人が、
目を離している間に、
酒とは無関係に突然死した可能性は排除できないわけで
そうなると…であっても、やっぱ放置はまずいわな。

多分、アル中で亡くなったとされる方の多くは、
低体温で亡くなっていると思うんです。
あとよくあるのは吐物の誤飲ですね。

この手の事故につながる『アルハラ』を無くすのは無理です。
特に、学生はアホですから。
不幸な目にあう方、不幸な出来事を少しでも減らすために

①泥酔者からは目を離さない、そしてできれば毛布をかけてあげる。
②お医者さんは泥酔患者さんが搬送された時は、
面倒がらずにちゃんと診断をつける(亡くなっていた場合でも)

といったあたりを啓蒙していくのが大事なんじゃないかな。